トンボ楽器製作所
- since1917 -

English

株式会社トンボ楽器製作所

  • たかがハーモニカされどハーモニカ

ハーモニカを「吹く」とは言うけれど

わが教室に昔、よくハーモニカのリードを壊す強者がいた。複音ハーモニカのみならずホルンハーモニカのリードさえ何本か折ったりもした。どうやらその生徒さんはハーモニカの吹き口めがけて強い息を吹き入れていたようなのだ。

考えてもみましょう。ハーモニカの発音体はリードと呼ばれる幅2ミリ、長さが1センチからせいぜい2センチ強の薄っぺらな金属片です。 これが心地よく完全振動して初めて美しい音が出るのです。 大前提としてリードプレートへのリードの取り付け方や隙間の作り方(アゲミ)は問題ですが、それは別に考えるとして、演奏に際して考えるべきは息の吹き入れ方です。

ハーモニカのふき口めがけて無茶吹きすればリードはストレスを感じて不完全振動! めざす音は鳴ってくれません。リードに100パーセント心地よく働いてもらうためには、もっと「リードの震わせ方」に思いを馳せねばなりません。ハーモニカの吹き口めがけて「フッ」と息を吹きつけるのはダメ! お腹の底から太く優しい息を「ホー」と、ハーモニカの穴を通してまっすぐ遠くまで持っていくイメージですね。「強い息」ではなく、「太い息」。特にレガート奏法ではこのことは重要です。

リードの様子は見られませんが、きっと気持ちよく震えてくれてますよ。ハーモニカを奏するとは、実はハーモニカを「吹く」と言うよりはハーモニカに「息を通す」ということだったのです。

複音ハーモニカのふくよかな音を実現するために大切なのは、か弱いリードへの愛。リードの気持ちを思いやりながら、きょうからハーモニカは「吹かない」で、「ホー」と優しい真っ直ぐな息を通してあげてくれませんか。

★ハーモニカライフ86号(2019.10)より

結成25周年、長く続いた秘訣は笑いと「酒」

ことしで結成25周年を迎えるのですから随分長いことやってきたものだと自分ながら感心します。なんのことかと言えば、ぼくが世話役として立ち上げ、いま現在指導者として関わる「愛川ハーモニカアンサンブル」というグループのことです。

わが店が本屋の一角にハーモニカを置き始めたいまから26年前、ハーモニカの愛好者を増やそうと大矢博文先生を講師にお願いして、全10回の複音ハーモニカ教室を近所のとある場所を借りて始めました。昔吹いたことがあるけれどといった人や初めて吹くといった人も含め、40代から60代くらいまでのおよそ20名の人が集まり、月二回、一度も休まず参加してくれました。もちろんぼくも本格的に複音ハーモニカを習うなんて初めてのことでした。

大矢先生のユーモアあふれる巧みな話術と褒めて育てる温かな指導が人気で、とにかく大矢先生のそばに座りたいと、躍起になって席取りする女性が多く、やや少ない男性陣は圧倒されるばかりでした。

半年の講座を終えて、もっと学びたい、そんな要望もあれば新規に学びたいという人もあって、さらに全10回の講座を開講。終始、和やかで楽しい教室でした。

講座を一通り終えた1995(平成7)年1月、新年会の席で、このまま解散では寂しい、グループとして活動していこうというぼくの提案で「愛川ハーモニカアンサンブル」は即座に結成されることとなりました。

しばらくは大矢先生の指導で、2002年の「アジア大会」あたりを機に大矢先生から竹内直子さんに、そして竹内さんの結婚とドイツ住まいを機に、ぼくへと引き継がれ、創設メンバーを中心にいまも16名の陣容で毎週の練習を続けています。長く続いた秘訣といえば、ズバリ笑いと「酒」。そのあたりはまた次号で詳しく書かせていただきます。

★ハーモニカライフ87号(2020.01)より

長く続ける秘訣は笑いと「酒」、その二

前回予告した笑いと「酒」について書きます。笑いはもちろん、酒は百薬の長と昔から持ち上げられる一方、よろずの病は酒よりこそ起これ、とも言われます。

江戸時代の本草学者、貝原益軒の『養生訓』にも「酒は天の美禄という言葉がある。少し飲めば陽気を補助し、血気をやわらげ、食気をめぐらし、愁いをとり去り、興をおこしてたいへん役にたつ。またたくさん飲むと酒ほど人を害するものはほかにない」(松田道雄訳)とあります。

最近では酒の飲み過ぎは癌のリスクを高め、認知症の危険因子になるなどともいわれ、どちらかといえば日陰者の趣きです。ただ適量の酒の効用はあるはずだ、と思うのです。若かったわれわれに「適量」への配慮があったかどうかは不問に付す他ありませんが、「酒」と笑いこそ四半世紀にわたってのメンバーの結束を促す一大要因であったのです。

一年は新年会で始まります。いまでこそ会場は居酒屋ですが、昔はわが店に一人一品と酒を持ち寄り集いました。

「この料理は誰が?」「これは美味い!絶品!」とワイワイ。いつもは静かで無口な誰かさんも料理には腕をふるってアピール。一旦ハーモニカを置けば、意外なご自慢があるんです。

春ともなればお花見。その実、花より団子。誰かが用意したシートに酒席を張って宴会の始まり! 夏になれば暑気払い。遠征旅行や合宿があれば宴会、また宴会! 一年の締めは忘年会! 全てにかこつけてお酒なのです。

私たちは日頃、週1回の練習を25年間ずっと続けてきました。そこには常に発表会やコンサート、あるいはコンテストへの出場という目標がありました。そして行事が無事終われば、自然と打ち上げ!

酒あるところに笑いあり、しかつめらしい練習では図れない互いのコミュニケーションや信頼関係が自ずから生まれます。まさにそれこそが長続きの秘訣だったのです。

★ハーモニカライフ88号(2020.04)より


岡本吉生 Yoshio Okamoto

日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。

コアアートスクエア(月曜定休)
〒243-0303 神奈川県愛甲郡愛川町中津3505
Tel:046-286-3520

●Webサイト
harmonica.bz/