トンボ楽器製作所
- since1917 -

English

株式会社トンボ楽器製作所

匠の声 ~垣渕編~

岩崎氏公認の整調者「垣渕 昭宏」が1921Sイワサキソロを語る

1921Sイワサキソロはリードプレートと本体の組み上げから整調まで一貫して行っています。
1人の職人が1本のハーモニカの組み上げから調律・調整まで行うことは、生産上、効率的とは言い難いでしょう。

それをあえて行う事で生まれるハーモニカがあります。イワサキソロは岩崎氏に認定された職人のみが製作する、まさにプロフェッショナルが作るプロフェッショナルのためのモデルです。

前任者の後を継ぎ、イワサキソロを担当する垣渕。 そんな彼もこのハーモニカの製作に携わった当初、様々な苦労がありました。

守り続けること


イワサキソロはその名の通り、岩崎重昭先生のシグネイチャーモデルです。

先生の編曲、奏法、吹き方、表現方法を具現化する楽器でなければいけません。他の複音ハーモニカとは、製作上異なったポイントが多くありますね。

薄い木製本体、低いアゲミ、非常にゆるやかで繊細なトレモロ。これは先生の演奏方法やクラシックに適した音色、音響設備を使用する事を考慮した上で生まれた特徴です。したがって、「音」 、「調律」、「調整」全てにおいて岩崎先生から指導を受けています。

以前、前任者からイワサキソロを引き継ぐ際、その前任者は私にイワサキソロの多くを語りませんでした。職人特有の「俺の背中を見て技術を盗め」というスタンスなのでしょうか? それでも私なりに経験もあり、日々ハーモニカの研究を重ねてきた中での挑戦です。自信をもってやるしかない!という状況でしたね。

前任者の技術を盗み、自信をもって製作したサンプルを持ち、私は厚木の氏のもとに伺いました。緊張の瞬間です。 先生はおもむろに1本のハーモニカを手に取り、私の目を見てお吹きになりました。しばし間のあった後、先生はゆっくりと口を開くと「ハーモニカとしては素晴らしい。しかし、私のモデルにするにはまだ時間がかかりますね。」いわゆる玉砕というのでしょうか。これがシグネイチャーモデルの難しさだと実感しましたね。

今思えば、私なら出来ると信頼して頂いた上でのダメ出しだったと勝手に解釈していますが。(笑)

それから私の製作したイワサキソロが完璧な「イワサキソロ」になるまで、繰り返しご指導を頂きました。先生から「これだったら買うよ という一言を頂いたのは何度目だったでしょうか。改めてハーモニカの製作という仕事に就いて良かったと思う瞬間でした。それ以降、私は先生の教えを忠実に守り、作り続けています。もちろん前任者の「背中」にも感謝しています。

高級複音ハーモニカとしてお客様に喜んで頂く製品であることはもちろん、岩崎氏のシグネイチャーモデルとして、先生に認められる製品でなければなりません。岩崎先生の門下生の方にもご使用頂くために「岩崎重昭氏の音」である事が大切です。

大切なものを守る事、また常に高い技術を追い求めること。これを高い次元で両立させたいと常に思っています。整調者の私も岩崎先生に認め続けられなければなりません。そういった意味では作る側も選ばれた最高級なモデルの一本ですね。

イワサキソロの製作


1921Sイワサキソロは組み込みから私が一貫して製作します。

本体を最適な状態に擦り、プレートを打ち込み、アゲミの調整、調律、トレモロ調整、最終検品まで、全て行います。

その為、1本1本に時間がかかりますね。

その中でも整調が一番の肝で、ここで何をどう行ったかで、その後の行程に大きな影響がでます。もし、カバーを取り付けた後の最終検品で問題があったとしたら… 整調の段階で私は何をしていたのかという事になりますからね。
外せない項目をきちんと行う。それが全体のフォルムを崩さない事につながります。それだけ音に集中しなければならない行程ですね。

調律・トレモロ調整について


音というのは感覚的なものでもあります。基音はチューナーで統一させることができます。

しかし、トレモロの量に関しては低音域から高音域にいくに従って多くなるように調律していきます。このバランスが複音ハーモニカの難しさでもあります。

各調子の各音程によって波動が異なる訳ですから、数値化する事は出来ない作業です。経験と、常に耳を鍛錬することが重要です。
複音ハーモニカのトレモロ量はモデルによって異なります。

我々はその為に作成したトレモロ基準のCDを常に聞くことで、モデルや調子による全体のバランス感を一定に保つ工夫をしています。

自分の持つ感覚が間違っていない事を確認する作業ですね。

イワサキソロでは、岩崎先生に指導して頂いた時に作った個体をサンプルとして保管しています。

これは先生個人に合わせた「吹き感」も確認することができます。

仕事とプライベート


この仕事は耳を使う仕事です。

トレモロなど微妙な音を調整しなければなりませんからね。常に耳を酷使していますよ。

たまに人に聞かれる事があります。「仕事で酷使した耳を普段は休ませたいのでは?」と。私はそんなことはありません。

私の場合、音楽が好きだと言う事が前提にあります。プライベートでも音楽を聴き、ハーモニカを吹いていますよ。

だから自分が演奏している経験も仕事に活かしています。

楽器も演奏も本当に好きだから、いいものをお客様に届けたいという気持ちになれると思っています。