トンボ楽器製作所
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株式会社トンボ楽器製作所

匠の声 ~霜越編~

市販の製品からアーティストモデルまで。
10ホールズを手がける霜越が メジャーボーイを語る。

10ホールハーモニカと言えば「メジャーボーイ」を思いつく方も多いのではないでしょうか。
初心者向けのイメージもある商品ですが、スタンダードでありながらまさにプロ仕様のハーモニカとなっています。
アーティストが使用する製品は皆様が使用している製品自体と差はありません。 実は同じ人間が作っています。
だからこそ実現できるクオリティがあります。
10ホールに関する秘話をご紹介します。

アーティストモデル


「メジャーボーイ」は多くのアーティストに支持を頂いています。

アーティストが使用する製品を調整するのも私の仕事です。
製品自体は皆様が使っているものと変わりません。アーティスト(吹き手)によって息の量、奏法が異なりますからリードのアゲミをその奏者に合わせる事が重要になります。ここが唯一の違いですね。

「ゆずの岩沢厚治さんが使用する「メジャーボーイは、特に一般の個体とは異なった調整が必要です。

岩沢さんは非常に強い息でハーモニカを吹きます。それがあのパワー感あふれる演奏になるのだと思います。しかし、息が強い場合、通常のアゲミでは吹き詰まりを起こし易くなります。それを解消する為、アゲミを通常よりも多く取った調整が必要なんです。

以前、B調のハーモニカが「しっくりこない」と連絡があり、調整に伺いました。元々岩沢さんの好みや奏法に合わせる調整はされていましたが、その時の吹き方には合わなかったようでした。

現在の吹き方を考慮し、再度調整したハーモニカをリハーサルの現場に持参。ご本人に確認して頂きました。その場で直接回答は頂けなかったものの、後日先方から「OK」のご連絡が… ほっとした瞬間ですね。

好みや奏法は少しずつ変化したりしますので、次も同じ物を作れば良いかというとそういう訳でもありません。
ここが難しい部分ですね。

整調者として、ファンとしての心理


メジャーボーイを長年使って頂いているアーティストで忘れてはならないのは長渕剛さんです。実は私も中学生以来の大ファンですから、この仕事に携わる事ができるのを非常に光栄に思っています。

ツアーの度に必ずチケットを取って行っています。もちろん「一般客」としてですよ。仕事柄、音の立ち上がりや楽器の鳴りなどがどうしても気になります。私が作った楽器ですから。一番心配なのは「もし一発目の音が吹き詰まったら…」です。「大事なシーンで音が出ない」コレだけは避けたいです。やはりライブを楽しみに来ているファンの為にも最高の演奏をして頂きたいですから。アクシデントがないよう細心の注意を払っています。長渕さん、最後にはステージからハーモニカを投げちゃいますけど(笑) でもファンが喜んでいる姿を見て、ますます製作意欲が湧きます。

長渕さんが使用するハーモニカのアゲミの調整などは、皆様にお使い頂いているメジャーボーイとほとんど差はありません。基本的な事ではありますが、アゲミの姿勢をしっかり取っておく事を注意しています。

10ホールズの整調


メジャーボーイをはじめとした10ホールズの1日あたりの生産量はかなり多いですね。アゲミの調整、調律、検品という具合です。大量の商品を整調するわけですからまさに職人技ですよ(笑)

アゲミの調整では1枚1枚を個別に見るのではなく、全体を視野の中で一発で判断します。吹音はリードが外に出ていますが吹音は見えませんね。この場合は蛍光灯を背にして、ハーモニカに光を当てて影を作ります。この影の具合が重要で、どの程度アゲミを調整すれば良いのか瞬時に判断して低音域から高音域にかけて一気に仕上げます。

アゲミの調整は出来る限り少ない回数で仕上げなければなりません。何度も調整すればその分だけリードのコシも弱くなり、音程も落ちます。それこそ製品の品質に関わってきます。ですから、ひとつずつじっくり何度も調整するのではなく、一瞬でどこをどう調整するかという判断が必要です。

この作業を初めて見た方に、あまりに速くて心配された事がありますが…これは長年の経験が生み出した技です。

アーティストモデルと販売製品


もちろんですが、私はアーティストモデルのみを手がけている訳ではありません。メジャーボーイをはじめとした10ホールハーモニカ全てを手がけています。販売製品とアーティストモデルに基本的に大きな差はなく、後者にはアーティストの好みにあった調律やアゲミなどの調整を行っています。それを除けば一般のメジャーボーイと全く同じ物です。

もちろん一般モデルに手を抜くという事はありません。アーティストモデルも作っているからこそ、そこで培った経験を一般モデルにフィードバックさせ、さらに良い物にしていくという事をしています。調律やアゲミは個人個人それぞれ好みがあると思います。その全てに応える事はできませんが、製品の品質はアーティストモデルと同じクオリティにする事ができます。

憧れのアーティストに近づくために日々練習されている方々に、同じクオリティの製品を届けたい。その思いで毎日作り続けています。