株式会社トンボ楽器製作所

★このページは『TOMBO祭2024』のコンテンツであり、2024年11月24日時点の情報となります。
真野:
そんなアジアでは若い世代にも人気のあるハーモニカですが、日本のハーモニカ界はというと、後を継ぐ世代が中々育たないというか、ハーモニカに触れる機会自体が減少しています。
吉田さんはご自身のYouTubeチャンネルで過去の世界大会の貴重な記録映像などをアップされていますが、やはりこういった文化や名演奏を途絶えさせたくない、後世に伝えていきたいという思いからされているんでしょうか。
吉田:
YouTubeチャンネルで動画をアップした元々のきっかけは、大矢おじちゃんが高齢になり、宿泊するのが厳しくなったので、私の車で日帰りで帰って来られる範囲しか演奏活動ができなくなったので、これまで同様、なるべく多くの方にオジョイメイを観てほしいと思い、YouTubeなら生演奏ではないですが、無料で全国どこでも観てもらえることができるのではと思ったからです。
なので、始めはオジョイメイの演奏映像をアップしていたんですが、そういえば亡くなられた岩崎(重昭)先生や森本(恵夫)先生の楽譜集なんかはたくさん出回ってるけど、実際に演奏を聴いたことがある人が段々といなくなっていることは以前から残念に思っていたので、大矢おじちゃん家にはそういった貴重な演奏が収められたビデオがたくさんありましたから、私一人で楽しむだけでなく、他の方にも観てもらったほうが良いのでは・・・と思い、そういうのもアップするようになりました。
図書館で本が無料で借りられるようなイメージですかね、YouTubeなら自由にどこからでも観られるからいいかな、と。
ただ、肖像権等の問題もありますから、演奏されているご本人には、可能な限り事前にYouTubeにアップして良いかの許可をいただくようにして、亡くなられた方についても可能な限りご家族等に許可をいただくようにしています。
ただ、オジョイメイの映像は、自分のトリオだし・・・と、二人には相談しないで勝手にアップするので、佳世子から「なんであんな映像をアップした?(怒)」と後からバレて怒られることがよくあります。私が「これはぜひ観てもらいたい!」と思っても、佳世子はそう思わないことがよくあるようで・・・(笑)

真野:
そうだったんですね。
吉田:
なので、収益化しようとか、そういう意図は全くないんです。
大矢おじちゃんや、佳世子や私も憧れた、ジェリー・ムラッドさん率いるハーモニーキャッツやアドラートリオ、森本先生のザ・ブルー・ハーモニキャッツや京都ハーモニカクヮルテット等々、世界や日本の名奏者の皆さんを全く知らない!という人もかなり多くなっていますし。
例えば、最近クロマチックを始めた方の中には、徳永延生さんや徳永先生の門下生である南里沙さん、山下伶さんに憧れる人も多いかと思いますが、やっぱりクロマチックハーモニカやるんだったら、ラリー・アドラーは知っていてほしい!んですよ。
野球で言えば、今は大谷翔平選手に憧れる人が多いんでしょうけど、やっぱりべ―ブ・ルースや長嶋さん、王さんも知っておいてほしい!と私は思うんです。(笑)
真野:
そうですね(笑)
今のプレイヤーにとっても勉強になることが多いでしょう。
それ以外にも、ハーモニカラスカルズなんてどんな人が見ても面白いって思うでしょうね。
吉田:
あれは、驚く人が多いですね。(笑)
日本で言えば、お笑いの中に音楽を取り入れていた、クレイジーキャッツやザ・ドリフターズのような感じですから、絶対面白いと思うでしょうね。ジェリー・ムラッドやピート・ピーダスンもハーモニカラスカルズ出身ですから、同じような流れというか雰囲気を持っていて、演奏も人柄もユニークで、そこもとっても魅力的でした。
ハーモニカの魅力って、超絶テクニックを駆使した演奏も凄いですが、一般的な興味関心という点ではオジョイメイもそうですが、ラスカルズのような楽しさにあるんじゃないかと思うんです。
ハーモニカの入口としては、という意味でね。初めて観たハーモニカの演奏でも、楽しければまた観たい!と思ってもらえるし、自分もハーモニカやってみたい!と思ってもらえるかもしれないし。
オジョイメイで演奏活動を始める時に、大矢おじちゃんからも最初にそれを言われたんです。
観に来てくれた人が「楽しかった!また観たい!」と思ってくれるような演奏、ステージをやっていれば、次のコンサートにもまた観に来てくれるし、あの人(家族や友達等大切な人)にもぜひ観せてあげたい!と思ってくれたら、今度は誰かを連れて来てくれるので、そうするとお客さん(ファン)は〝倍々ゲーム〟で増えていくんだよ・・・と。なので、オジョイメイは常に〝楽しいコンサート〟を心掛けていたら、1992年の初ステージから7年経った1999年には、厚木市文化会館の大ホール1,400席のチケットが完売するまでにたくさんの方々に応援してもらえるようになれました。
大矢おじちゃんの言うことに、間違いはないんです!(笑)
佳世子も私も、ハーモニカ始めた時からじゃなくて、きっと生まれた時から洗脳されてますので。
真野:
確かに。
当然ですが、ハーモニカの楽しみ方って一つじゃないですから、もっと気軽に使っていただいていいんですよね。曲の合間に少し吹く、とかでも。
さて、そんな吉田さんがYouTubeチャンネルにアップしている動画には様々なジャンルがあるんですが、特に観てほしい、と思うのはどれですか?
吉田:
そもそも、私がアップしている動画というのは、私がこれは皆さんにもぜひ観てほしい!というものしかあげていないので、全部おススメなんです。(笑)
が、あえていくつかピックアップしてみますね。
まずは、手前味噌で大変恐縮ですが(笑)、元々オジョイメイの演奏を観てほしい・・・とのことから始まってますので、『オジョイメイ・トリオの楽しいコンサート!』というタイトルを付けた動画です。
コレ、約38分間もあるんですが(苦笑)、横浜市内でやった時のオジョイメイのステージで、最初から最後まで丸々なんです。オジョイメイは、皆さん美しい誤解?をしていただいてますけど、決して上手いトリオではなくて、ハーモニカの実力だけでいえば、我々よりも上手いアンサンブルなんていくらでもいますよ、本当に。ただ、どういう曲をどんな流れでつなげていくか、どんなおしゃべりを挟んで楽しんでもらうか等々を工夫している自負はあるので、1曲ごとではなくて、1つのコンサートとして観ていただきたいんですよね。
じゃないと、決して上手くないから、何の魅力もないグループだと思うので。(笑)
オジョイメイ・トリオは、こんなグループでしたよ!っていうのが伝わるようなステージではないかと思います。上手いかどうかは、別にして・・・(苦笑)
真野:
これ結構最近のですよね。いつのですか?
吉田:
これは2017年ですね。
大矢おじちゃんがこの時80歳ですから、以前のようなスピードは出せなくなっていますし、ミスもわかる所もあるかと思いますが、それを言っては〝プロ〟としては失格なんでしょうけど、ミスも含めてステージだと思ってやっていました。
逆に、80歳でこれだけできるのも凄いと思いませんか?(笑)
メンバー紹介の時も、大矢おじちゃんの年齢は必ず強調するように言って「えーっ!」って驚きの歓声?をもらってましたし、実力のないオジョイメイは、基本的にやり方がセコイんです。
真野:
いや、凄いですよ。
吉田:
岩崎先生の門下生だった、リトル・フラワーズによる『トルコ行進曲』の動画も観ていただきたいですね。今では、考えられないと思うので。
この演奏は、全員中学1年生の時ですが、前年小学6年生の時とこの年と、2年続けて全日本ハーモニカコンテスト(FIHジャパン)のアンサンブル部門で優勝しています。
みんな昔から知ってるので、全員旧姓で恐縮ですが(笑)、クロマチックハーモニカが竹内直子さん、複音ハーモニカが岩間朱美さんの妹の岩間史恵さん、コードハーモニカが熊沢さつきさん、バスハーモニカが浜田令子さんです。
FIHジャパンのコンテストは、年齢によるジュニアやシニアの区別がないので、大人のアンサンブルも含めての2年連続日本一ですから、小学生のグループがこれだけの演奏ができて、大人のどのグループにも負けないって、今では考えられないと思います。
そこはやっぱり、岩崎先生の指導力が大きかったと思いますけど。
真野:
いやぁ、上手いですね。
竹内さんはドイツ在住ですが、この前会いましたよ。
彼女はドイツでハーモニカを、旦那さんはアコーディオンを教えていますね。
ところで、ハーモニカライフで紹介した動画はどのくらい再生数が伸びているんですか?

吉田:
再生数ですか……私あまりそういうのは気にしていないんですが、ライフで紹介した後は大体100くらい増えるかなぁ?って感じかと思います。これは、決して多くはないと思いますが。(笑)
やはりライフの読者は、年齢層は高いほうだと思うので、YouTubeを観られない、観方すらもよくわからないという方が結構いらっしゃるのではと思います。が、実は観られる、楽しめる環境にある方々も多いのではないか、とも思うんです。
例えば、お子さんと同居しているとか、実は結構なギガ数でスマホを契約しているとか。こんなご時世なので、YouTubeを安易に観てしまったら、後から高額請求をされるのでは?とか、たくさん観てしまうと携帯電話として使えなくなるのでは?とか、そういうのが怖いから、やらないようにしている・・・といった話もよく聞くんです。
間違った情報を信じてしまっている人も多いようなので、今はコロナ以降〝ハーモニカ合宿〟のようなイベントはやられてないのかと思いますが、ハーモニカのイベントの時に複音ハーモニカの初級講座、中級講座、クロマチックハーモニカの○○講座、アンサンブルの講座等々、いろいろな講座を企画されることがあると思います。
そんな時に、例えば〝YouTubeでハーモニカ動画を楽しもう!〟とか〝YouTubeを使ってハーモニカが上手くなる!〟といった講座を企画して、YouTubeを観る方法とか検索の仕方、またネット犯罪等に巻き込まれないようにこんなことに気をつければ大丈夫!とか、基本的な使い方や注意点をわかりやすく教えてあげて、参加してくれた方がご自分のサークル、教室に戻ってハーモニカ仲間に教えてあげる・・・といったことができる機会があれば、ご自分の〝ハーモニカライフ〟にもっとYouTubeを活用してもらえると思うんです。

真野:
そうですね。
それでも複音の動画コンテンツはトンボのYouTubeでもかなり再生されていますし、途絶えることなく少しずつでも増えているんですよね。
これは観られる人が増えてきているんだと思います。
吉田さんのこうした活動なんかも少なからず影響していると思います。
このTOMBO祭もオンラインのイベントですから、参加に繋がればと思っています。
さて、それでは今後のハーモニカ界について、少し踏み込んでお話をお聞きしたいと思いますが、ぶっちゃけ、吉田さん的にはどうしたらハーモニカ人口が増えていくと思いますか?
吉田:
難しい質問ですね……。
私、一応全日本ハーモニカ連盟の理事にもなっていますので、そういった組織としての観点から言いますと、ハーモニカに限ったことではないでしょうが、若い人を増やすには、やはり若手のプレイヤーにもっと発言の機会を与え、それに耳を傾けることが大事なのかと思います。
今〝絶滅危惧種〟であるハーモニカが、このままでは本当に〝絶滅〟してしまうのではないかと、かなり厳しいのではと思うくらい心配していますよ。
私、オジョイメイのつながりもあったので、以前は年賀状を1,000枚くらい書いていたんですが、今200枚程度なんです。年々減っていくのは、オジョイメイを応援してくれていたハーモニカ愛好者の方々が次々と亡くなってしまうんです。1992年にデビューしたオジョイメイですから、例えばその頃60歳で定年して、ハーモニカを大矢おじちゃんに習い始めて、オジョイメイも応援してくれたとすると、今、ご健在だったとしても92歳なわけです。亡くなられた方が多いのは、残念ながら納得できます。
オジョイメイのステージで、最初の頃大矢おじちゃんがいつも「誰もが一度は吹いたことがある楽器」とハーモニカを紹介していました。戦争を経験されたご年配の方々にはハーモニカは憧れの楽器であり、戦後に生まれた方にとっては、私も含めて小学校で最初に習う楽器がハーモニカでしたから、確かに〝誰もが一度は吹いたことがある楽器〟だったんです、その頃は。実際、子どもの頃に見たテレビでのインタビュー企画だったと思いますが、〝演奏したことのある楽器〟といった質問で、ピアノやギター等々とは比べものにならずに、ハーモニカが圧倒的な1位でした。
それくらいハーモニカは身近な楽器だったはずなのに、今や「誰も一度も吹いたことがない楽器」になってしまっています。
特に小学校でハーモニカは教えないようになってしまいましたから、今の子ども達にとっては、ハーモニカとは〝鍵盤ハーモニカ〟のことならわかるものの、口にくわえて、吹いたり吸ったりして演奏するハーモニカは、見たこともないですし、これから生まれる子どもも同様に全員そうなります。
でも、ハーモニカって綺麗な音を出せるかどうかは別にして、誰でも吹いて吸って音を出せるじゃないですか!探り吹きで簡単なメロディはすぐ吹けてしまいますし。
だから習ったことがなくても吹けてしまうこともある、なんとも不思議な、魅力的な楽器だと思うんです。楽譜が読めなくても、数字譜もありますし、誰でもすぐに音は出せるので、年齢問わず始めやすい楽器だとも思っています。
我々にとっては、小学校で初めて習う楽器がハーモニカでしたけど、例えば〝人生の最初から最後まで誰でも楽しめる楽器〟のようなキャッチフレーズで、教育機関はもちろん、介護施設などでも使っていただけるようになればいいな、と思うんです。
何より、ほとんで全ての楽器のように吹いて音を出すだけでなく、ハーモニカは吸っても音が出る楽器ですから、吹いたり吸ったり、上手くなくてもハーモニカ吹いてるだけで呼吸(深呼吸)を繰り返してるわけですから、確実に健康にも良いのです!(笑)
これから高齢化社会が益々加速しますし、楽譜が読めなくても演奏できますし、歳を取ってからでも始められる楽器として認知してもらいたいですね。

真野:
ありがとうございます。
若手の発言の機会ということに関しては、全日本ハーモニカ連盟の常任理事会がオンラインになったこともあり、各自聞いていくようにしていますので、以前よりは言いやすくなったと思います。
志のある若手が積極的に表に出て来ていただければ希望もあるのかな、と思っています。
あと、おっしゃるようにハーモニカって、高齢になってからでも気軽に始められるんですね。楽器経験が無くても。以前は小さいころに複音ハーモニカを吹いたことがある、という方が多かったので懐かしさもあって定年後に始める方が多かったですが、今は定年後に気軽に始める楽器として需要が出て来ています。
人間、歳をとるとハーモニカの音色に惹かれるところがあるのかもしれませんね。
若者にハーモニカを知っていただくことと同時に、こちらの需要にも応えていくことが大事かなと思っています。
吉田:
でもトンボさんって、アコーディオンがメインじゃないんですか?
真野:
いえいえ、80%ハーモニカですよ!
吉田:
えーっ、そうなんですか!
勝手にそう思っていました。(笑)
やはり主力は複音ですか?

真野:
そうです。どうしても高齢者が多かったのでコロナ禍の落ち込みは結構響きましたね。
教室も軒並み閉鎖し、ハーモニカを買おうにもオンラインショッピングができない方が多かったですからね。その点若者はオンラインで買い物もレッスンも問題なく出来ますから、楽器全体の需要としては伸びていました。
ところで、吉田さんはハーモニカ界から一線を退いた、とか言ってますが、ハーモニカに対する熱量は全然失っていないですね(笑)。アーカイブ動画の作成とか、ライフのコラムを通してユーザーと交流していただくなど、とても根気のいる作業をこなし、ハーモニカの素晴らしさを後世に残そうと動いてくださっています。
中々できることではないですよ。
吉田:
いえいえ、でもまあ、ハーモニカのおかげで人生が変わったのは確かですし、オジョイメイが活動できなくなって、もう人前で演奏したり表舞台に出ることはありませんけど、いろいろとハーモニカで楽しい思いをさせていただいたので、恩返しみたいな気持ちもあるんですよ。
ハーモニカは、それなりの魅力がある、ちょっと不思議な楽器だと思っていますから、それが多くの方に伝わったらいいなと思っています。
なので、今後も私にできることであれば協力させていただきたいとは思っているんですが、なにぶん私は難しい性格?なので、自分が納得、賛同できないことには協力できないんです。(笑)
そんな私を上手くコントロールしてくれてたのが、大矢おじちゃんであり、佳世子だったのだと思いますから、二人にはひたすら感謝ですね!
真野:
ありがとうございます。
是非これからも、ハーモニカ文化の継承と普及のためにお力をお貸しいだければと思います。
今日は有意義なお話をありがとうございました。
我々メーカーも試行錯誤しながら、目標に向かって前に進んで参りたいと思います。
吉田:
こちらこそ、ありがとうございました。
引き続きハーモニカライフでもどうぞよろしくお願いいたします。




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